アメリカから藤屋さんにお嫁に来られてそれが話題となり、『日本人には日本が足りない』という名セリフ?CMとともに、かなり有名になったジニーさんという方がおられました。聞くところによれば、当時の銀山温泉は大正ロマンの代名詞になるほどの雰囲気がありながら、時代の流れに押され気味で、客足もあまり芳しくはなかったようです。
ところがジニーさんが話題になり始めると少しずつ客足が戻り、特に藤屋さんの絶頂期には半年先までの予約でいっぱいになったそうです。そんな折、建物屋根の四角い白い塔の窓にステンドグラスを入れたいとオファーがあり、早速打ち合わせに伺いました。ジニーさんとお話が進むと日本にはかなりの思い入れがあることが分かり、デザインとガラス選びには細心の準備が必要でした。
日本のイメージの一つが"障子"だと知ることになり、デザインのバックには白のガラスを指定されたのが印象的でした。デザイン的には屋号から来る藤の花は当然としても、意外だったのは軒下に住みついてる鳥のデザインでした。なんの鳥か忘れましたが、可愛がっていたんですね。微笑ましい繊細さを感じました。
以後これらのステンドグラスを旅館のシンボルとして大事にしてくれていたのですが、何年か後に改築する際に取り外してしまったようです。近代的な建物にはそぐわなかったのかはわかりませんが、噂ではジニーさんとしては最後まで残したかったらしいと聞いて、とても残念でもったいない気持ちになったことをはっきりと覚えています。
それにしても結果的に藤屋さんだけ銀山温泉全体の景観から浮いてしまってるのが顕著なので、個人的には周りの景観を損なうような設計は残念でなりません。同時に日本のことが好きな(好きになろうとした)外国人が感じる、日本的な感覚と思い入れは相当なものだということも学んだ貴重な体験になりました。
銀山温泉にはとても縁があり、後数軒仕事をさせていただいています。